土間、障子、囲炉裏 (掘り座卓)
日本古来の農家的な空間構成
■オーナー様は30代のご夫婦、まだお子さまはいらっしゃいません。
ファーストプレゼンテーションを終え、オーナー様の潜在的なご希望をも知るため、ヒアリングを重ねていました。
「自宅でロープワークの練習をしなければならないんですよね」
とご主人。横浜市消防局のレスキュー隊員で、腕を鈍らせないため始終ロープを扱う必要があるのです。奥様はでも
「そういうのは外でお願いね」
ご夫婦、大きな水槽で熱帯魚を飼ってらっしゃる。
ならばと、玄関を入ると、そこはホールではなく、5.5畳ほどの土間とし、上がりかまちが LDK に続くプランを提案しました。土間は南西2面の開口が広く、明るく、防水モルタル仕上げ。水栓とシンクを設け、屋内ながら散水して床を洗うこともできます。ロープワークはもちろん、アクアリウムを緑で埋め屋内植物園にするなど、多用途に使えます。 |
狭小住宅ではことに、キッチンやバス、洗面カウンターなど機能スペース以外の空間は、可能な限り間取らず、多用途に使えるよう設計します。
玄関ホールって必要でしょうか? 玄関ホールを玄関ホールとして設計すると、出入りのためだけの刹那的動線としてしか使えません。
■土間と13畳の LDK の間には障子を設けました。"太鼓張り" という、表裏両面に障子紙が張られたものです。桟がシルエットになる透過光が優しく、断熱性も優れています。障子はハンギング(天吊り)で、床に敷居はありません。
リビングにソファを置きたくないというご希望。現在のお住まいでも座椅子を使っておられるとのこと。
同感、大きなソファは、空間の汎用性を削いでしまいます。フロアレベルで食事をし、寛ぐため、掘り座卓としました。 |
■土間は5.5畳。防水モルタル仕上げ。屋内だが散水洗浄できる

座卓ももちろん専用設計し、製作したもので、4脚の裏に設けたダボで固定、取り外すこともできます。掘り込みにしたことで、テーブル面、アイポイントが低くなり、LDK が広く、高く感じられます。
フローリングはナラのムク材、テーブルとキッチンカウンターはタモの集成材を使い、両者の風合いが互いに引き立つように。
土間、上がりかまち、障子、囲炉裏 (掘り座卓)という構成は──現代の住宅が学ぶべきことも多い──日本古来の農家のそれです。 |
■土間、上がり框、"太鼓張り"の障子を介しLDKに続く ■空間の汎用性を奪いがちなソファを避け、掘り座卓を
奥様は農家で成長されたとのことで、この常識的ではないプランに全く抵抗なく、ご主人ともども喜んでいただけました。 |