私がいう"デザイン"とは、 前衛的、野心的なそれとは対極、 真の"スタンダード"に迫る作業です。 ──SUMiZ 諸我アーキテクト ■わが国の住宅業界はひどく保守的で、建売りでいえば、たとえば、階高は270cm、基本は4LDK、外装はサイディング……などといった常識(?)が席巻し、実際、そういう物件があふれています。 サッシュ枠の素材や色ひとつとっても、誰かが「冒険」するまでずっとアルミ製でブラウンでした。 そういう種類の常識は、たいていの場合、「現実」よりずっと古くさく、たち遅れたものです。 建築家としての、30年余のキャリアのなかで、100棟以上の注文住宅を手がけてきましたが、「常識」をご希望されたクライアントは皆無です。 どころか私は、100の設計を通じて、100種類の、ユニークな生活観に出会いました。 |
「人間ってこんなに違うのか」────。 同時に、百様のなかに、ある普遍性も見えてきました。そしてそれは、住宅デザインの──常識や流行ではなく──真のスタンダードになりえる、と、確信するようになりました。 では、クライアントは、明快な言葉にはできなくとも、本当は、いかなる"デザイン"をお求めなのか? SUMiZ には、注文住宅も、提案型分譲も含まれます。 注文住宅の場合は、クライアントを「問診」し、かれが顕在的潜在的に求めている「暮らし」を洞察し、その次元を高めた「環境」をかたちにします。 一方、デザインの時点でクライアントがいない、提案型分譲の場合、──施主固有の条件や希望がないため──より自由で、それこそ敷地選びからかかわり、 もちろんコストの制限などクリアすべきことはあるものの、理想、といいますか、only one の「解」、真のスタンダードを追求できます。 |
万人受けはしません。 住宅においてはそれはありえません。 施主固有の事情、年齢、家族構成、予算、価値観、生活観はそれぞれ違いますから。 100%ではなく、10%、場合によっては1%かも知れませんが、必ず、これだ、と目を開かれる顧客がいて、 ▼剛床構造コンセプト |
買っていただけ、注文住宅以上に、かれらの生活にフィットし、さらにはその生活そのものを啓蒙し、健康的で自然なそれに変えうる。 そういう結果を目指しています。 そしてもちろん、提案型分譲でえられたノウハウは、注文住宅デザインに応用できます。 |
哲学をいっても、工学的ノウハウの 質量を前提としなければ、 空論にすぎません。 ■私は、クライアントのウケがあまりよくありません。「人のはなしをよく聞いてない」ようにみえるらしいのです。 ほんとは、必死で聞き取り、目まぐるしく脳内シミュレーションしてるので、あちらがわに行ってるように(苦笑)、みえるのじゃないかと思うんですけど……。 ですけど、私が手がけた家に、2年、3年とお住まいになるうち──先述した"SUMiZ standard"が奏功して(?)──評価が上がってきます。 早起きになった、ガーデニングを始めた、休日、家で過ごすことが多くなった……生活そのものがかわってきました、と。 |
デザインの最終目的は、そういう「生活」の実現ですが、その成否はもちろん、住宅というハードウェアの具体的な設計いかんです。 哲学をいっても、工学的ノウハウの質量を前提としなければ、空論にすぎません。 たとえば私は、特殊な施工を要求するデザインをしません。それにより施工精度、品質が上がります。 たとえば、剛床構造を好んで採用します。 通常は、大梁を1間スパンで渡し、根太を介して床を張ります。 剛床構造では大梁を半間スパンとし、その上に床を直接張ります。とはいえ、断熱性、遮音性を犠牲にすることはありません。 |
構造が堅牢になりますし、筋交いともあいまって、耐震性も高まります。 根太がないぶん、階高が、25-35cm低くなり、階段数を減らすことができ、1階と2階の関係が親密になり、大梁を「現し」とすることで、下階の実用天井高も確保できます。 木造ながら、防水層に応力負担をかけないので、ルーフ全面をデッキにすることも可能です。 さらにいえば、将来必要になったときに、そこに床を張るだけで一部屋増やせるように、吹き抜け空間に大梁を配するなど、応用も利きます。 剛床構造は一例ですが、そのような、合理的かつリフォーム性にも優れる設計を心がけています。 |
諸我尚朗 (もろが ひさお) http://www.a-arc.co.jp/ ■建築家。一級建築士。51年福岡県生まれ。神奈川大学工学部建築学科卒。 89年アトリエアルク設立。神奈川大学建築学科非常勤講師(91-06年)、受賞多数。 「デザインとは、前衛的、野心的な創造ではなく、真の"スタンダード"に迫ること」なる信念をもって百余の戸建て住宅を設計。その、環境親和性が高く、そこに住まう方の、生活観や生活習慣すら変えてしまう仕事は高く評価されている。 |